「賃貸管理システム」は、古くは「賃貸管理ソフト」と呼ばれ、今は「賃貸基幹システム」と呼称されるようになってきたジャンルのアプリケーションまたはアプリケーション群のことです。
本投稿においては折角なのでこのジャンルを今風に「賃貸基幹システム」と呼ぶことにします。
弊社が販売する『賃貸名人』も便宜上この「賃貸基幹システム」というジャンルに属します。
『賃貸名人』のジャンルが変わるほどソフトの規模が時代に応じて拡大した訳ではありませんが、同じジャンルにいないと Google 検索でヒットしないというビジネス上の事情もあります。
さて、一般的には「賃貸管理ソフト」→「賃貸管理システム」→「賃貸基幹システム」という呼び方の変化に伴ってシステムの規模も拡大してきました。
ここで本投稿のテーマである導入失敗に話題を進めます。
言葉の響きだけで、「賃貸管理ソフトの導入失敗」と「賃貸基幹システムの導入失敗」を比較して想像していただければ、ユーザー様のダメージはどちらの方が大きいのかすぐに分かると思います。実際にコストで言えば桁が一つか二つ違います。
なお本記事は、『賃貸名人』であれ『他社基幹システム』であれどのシステムを選ぶにしても、ユーザー様が受けるダメージを少しでも低減できればと思い投稿しています。アクが強すぎるので現在『賃貸名人』のご導入をご検討中のユーザー様にはお読みいただきたくなかったりします(笑)。
《目次》
(1)賃貸基幹システムを導入する目的と失敗の定義
(2)○×表の罠
(3)導入失敗の原因と簡単な解決策
(4)失敗しないだけ?改善はどうする?
(5)その Vision は「一」(イチ)から始まっていませんか?
(1)賃貸基幹システムを導入する目的と失敗の定義
さて、「賃貸基幹システム」を導入する目的は次の2つに集約されます。
①既存の業務を運用すること
②既存の業務の改善または新しい業務を実現すること
では、「賃貸基幹システム」の導入において一番困る失敗は何でしょうか。
それは「①既存の業務が運用できないこと」であり、導入を後悔する原因はここにあります。「導入前のシステムの方が良かった。」「Excelで管理していた以前の方が楽だった。」という状態です。
「②業務改善や新規業務」はある程度実現できれば目的は達成されますが、オーナーや入居者という対顧客向けのサービスである賃貸管理業において、既存業務が運用できなかったり品質が妥協できないレベルまで落ちるようではシステムの導入がすなわち失敗であったと言えます。
なぜ購入前に業務と照らし合わせて検討をしているのに、新しく導入した「賃貸基幹システム」でその業務が運用できないというミスマッチが起こるのでしょうか。
(2)○×表の罠
多くの場合は「賃貸基幹システム」を比較検討する際、(機能が多すぎることもあって)その機能をシンプルにまとめた○×表で評価してしまいます。各メーカーから出てくる比較資料も○×表であることがほとんどです。
見慣れた表だし、判断基準がシンプルになるので便利に見えます。
実際に○×表が出てこなかったとしても概念としては存在します。セールスマンは“できる”⇔“できない”で機能を整理していきます。
ただし、本来「賃貸基幹システム」を評価するには各機能を「作業工数」「習熟コスト」「処理・応答速度」「アウトプットの体裁」等の様々な項目で点数化するべきです。
○×表では「○」に見えて、実際に使ってみたら及第点ギリギリの40点、使えるは使えるけど Excel の方がマシだったということがここで起こります。
残念ながら、現在のように○×表で「賃貸基幹システム」を評価することが一般的な状況においては、各メーカーは及第点の40点でも良いから機能を網羅することを優先します。開発資源は有限であり、各機能の加点を狙うよりも新たな「○」を獲得することに多くのリソースが振り分けられるのです。
ならば、○×表ではなくスコア表で「賃貸基幹システム」を評価するのが正解なのでしょう。
しかし残念ながらそのような資料はどのメーカーにも存在しませんし身贔屓なしにそのような資料を作ることもできません。そしてスコアはどのユーザー様にも一律に適用できるものでもありません。
(3)導入失敗の原因と簡単な解決策
さて本題です。
「賃貸基幹システム」の導入に失敗する原因と、簡単な解決策を投稿してしまいます。これはセールスマンキラーの毒針でもあります。
「賃貸基幹システム」の導入に失敗する原因は主に決裁者による衝動買いです。
なお、これは決裁者が悪いのではなく、業界のセールスが“決裁者による衝動買いを誘導”するようシステム化されていることに拠ります。
また、会社の偉い人でなくても業務改善のために入社したばかりの事業部長でも同じです。決裁権があれば衝動買いを誘導されてしまいます。
つまり防御策は簡単で「現場担当者を導入責任者にする」、これだけです。これで①の失敗はほぼなくなります。
くれぐれも偉い人が打ち合わせにしばしば同席して導入責任者の責任を薄めてしまわないようご注意ください。
なぜ従業員を導入責任者にすると導入の失敗を回避できるのでしょうか。
賃貸管理業務は現実の仕事であり、「賃貸基幹システム」を仕事道具として捉えれば、「○×表」というメーカー都合で用意された資料なんかに頼らなくても現場担当者ならばどの程度業務が実現できるか簡単に判断できるからです。
実際にその道具を使って自分が仕事をするわけですから、セールスマンが語る Vision に相槌を打っている場合ではありません。ジョブを各段階で細分化し、詳細な質問をぶつけ、可能であれば実際に操作して使用感を確かめる必要があります。
セールスマンの話を聞くよりも、管理物件のデータをシステムに投入して契約書を発行し、入金管理をして月次報告書を印刷してみた方がよほどシステムの本質を知ることができます。
Zoom会議でそれが難しいのであれば訪問してでも実動作を見るべきです。Power Point のスライドや PDF 資料で楽観的に納得してしまい結果的に失敗に至ったら自分が怒られます。基幹システムを入れるのですから仮に遠方であったとしても交通費をケチっている場合ではありません。セールスマンは見せたくない部分は見せない、良い部分をよりよく見せる。それが仕事です。
Zoom越しの粒度の粗いご質問には「できます!(断言)」「実際にそういう使い方のお客様はたくさんいらっしゃいます!(事例提示)」を返すだけなので簡単です。もっと踏み込んでください。
実際に、色々なメーカーの「賃貸基幹システム」の導入失敗事例を目の当たりにすると、「偉い人の衝動買いだから許されているけど、導入したのが自分だったらまずクビにされるな。」と思わされる話ばかりです。
自分が担当するならば、万が一検討が不十分のまま(例えば社長の意向で)導入を進めなければならないとしても、契約は最低コストの短期1年契約にして様子を見ます。お得な複数年契約値引きを提示されたとしてもです。つまり、責任を問われる立場の者であれば自分の分を超える規模の散財を保身的に避けるし、慎重に進める姿勢を社長に見せる必要にも迫られます。
逆の立場で言えば、セールスマンは決裁者の衝動買いを期待して営業活動を行います。防波堤である実務担当者と話をしたくなんてありません。商談には決裁者の同席を望み、決裁者が我に返る前に、衝動買いモードのうちに色々なオプションを付けて5年以上の長期契約を結んでしまったりします。

また、我に返った顧客のヘイトが自分に向かないよう、顧客自身の後悔でおさまるよう、セールスマンは最後まで親身で良い人に見えます。
(4)失敗しないだけ?改善はどうする?
では「②既存の業務の改善または新しい業務を実現すること」はどうでしょうか。
保身を考える社員では思い切った改善はできませんから、偉い人が決断するべき場面なのでしょう。
でも私が見聞きした導入失敗はまさにここから始まっていました。お客様から「Visionに惹かれた」とか「理念に共感した」とか、「賃貸基幹システム」を道具ではなくもっと大きな概念で捉えたワードが出たら黄信号だと思っています。
この状態はまさに ②>① であり、失敗の原因である①の軽視(妥協)がすでに始まっています。「賃貸基幹システム」を大きな概念で捉えているので、支払うコストへの納得感も高まっています。「安かろう悪かろう」の反対に「高かろう良かろう」の心理も働きます。常識的に考えて高価な商品にはそれだけの価値があるはずだとお考えのはずです。実務との適合ではなく「セールスマンが語る Vision」と「価格の高さ」で導入を決断しかけています。
ところで「体験」というワードもこの領域にいます。道具を扱うときの快適さは「使用感」であって「体験」ではありません。「体験」ははっきりIT業界がシステムの価値概念を拡大するために拵えたバズワードです。素直に受け取るべき言葉ではありません。「体験」はディズニーやキャンプ等のレジャーにこそ相応しい言葉です。システム全体には曖昧に「体験」という言葉を当てはめてみても、ジョブを細分化したときに、例えば「データ入力体験」「帳票印刷体験」では変ですから、この言葉の選択が不適切であることが伝わると思います。
また「セールスマンの人柄を信頼した」というのは論外です。「セールスマンの人柄は嫌いだけどシステムがよく見えたから導入する」の方がずっとクレバーでしょう。システムの導入に失敗した後ですら担当セールスマンは良い人に見えるものです。それが仕事なんです。
せめて ①>② 、
①既存の業務が実現できること、あるいは妥協可能な改悪で済むことを、失敗したら怒られるレベルの担当者に確認させたあとに②の検討をするか、または②の「Vision」を担当者に共有した上で責任をもって①の業務フィットを精査させることをお勧めします。
○×表における及第点レベルの「○」を連ねた「賃貸基幹システム」は、Vision レベルで見ると一つのデータ投入が様々なアプリケーションとリンクし、これがとてつもなく業務改善に寄与するように見えます。
ただ、繰り返しになりますが開発のリソースは有限です。もし○×表の各「○」が高得点で、かつ「○」が多いシステムであったとしても最終的にそのスコアはユーザー様へのコストに転嫁されます。
(5)その Vision は「一」(イチ)から始まっていませんか?
最後に先程から槍玉にあげてきた Vision について触れてみます。
セールスマンが語ったその Vision は「一元管理」や「一括入稿」や「One Stop」や「ワンクリック」のように頭に「一(1)」が付いていませんでしたか?
これは最近の不動産Tech(不動産システム)どころかもっと昔からこの業界が訴求しているワードです。
もっとも「ワンクリック」なんてただの嘘です。9回裏2アウト2ストライク3ボールからの三振でゲームセットしたとき「一球で試合を終わらせた」といっているレベルのレトリックがここにあります。
前段で提示した○×表の「○」を連ねたらシステムは複数の機能の集合体になっていくので、当然ながらこの「一」から始まるワードが分かりやすく売りになります。

賃貸基幹システムは昔から「銀行(電話回線)」「チラシ作成ソフト」「会社ホームページ」「会計システム」と連動し、やがて「ポータルサイト」や「保証会社」と連動し、今や「銀行(API)」「○○アプリ」「○○システム」とも連動するようになってきました。
「一」(イチ)から始まるワードは意外と手垢が付いており、この訴求に今更強く揺さぶられる必要はありません。それよりも今現在においてもシステムの中核にある《賃貸管理機能》を評価してから、その後に連動する機能に目を向けることをお勧めします。
なぜなら、最も重要な中核部分の《賃貸管理機能》は各メーカー似たり寄ったりではありません。《賃貸管理機能》の良し悪しだけでなく各社この部分のコンセプトや使用感が全く異なります。
さて本投稿のなかではダンゴネットの『賃貸名人』がどの立ち位置であるのか敢えて明示しないようにしました。それについては賃貸管理部門のご担当者様が実際に各社システムの使用感を確かめた上でご検討いただければと思います。
Posted By Tanaka(tanaka@dangonet.co.jp)